紙パック入りの野菜ジュースを買うとき、あなたはカゴメ派ですか?それとも伊藤園派ですか?私は野菜100%のジュースの場合は伊藤園派ですが、果汁が入っているようなものではカゴメを買うことが多いように思います。
伊藤園は「お~いお茶」だけのメーカと思っていたら、タリーズコーヒーや広島県のチチヤスもグループ企業ですし、最近は日本茶飲料事業への依存度を下げるように野菜飲料事業等にも力が入っています。
そして、最近伊藤園のトマトジュースの売上も伸びており、カゴメに次いで業界2位のシェアを占めています(注)。伊藤園は「理想のトマト」や「濃い熟トマト」を販売していますが、特に「理想のトマト」は理想のおいしさと栄養を追求した商品として注力しているのか、伊藤園では珍しく1種類の商品で1つのブランドを形成しています。そして、「トマト含有飲料及びその製造方法、並びに、トマト含有飲料の酸味抑制方法」という発明に特許(特許第5189667号)を取得しました。
ところが、業界首位のカゴメは、伊藤園の特許を無効とする審判を特許庁に請求し、その審決が無効ではなく特許維持となったところ、その維持審決を不服として知財高裁に対して審決の取消を求める訴訟を提起し、その判決が平成29年の6月に下りました。
判決の結果、カゴメが勝訴し、伊藤園の特許維持という審決が取り消されることになりました。
無効審判の審決とは、特許を無効にしてほしいと特許の存在を望ましく思わない利害関係人が特許庁に請求する無効審判の結論であり、維持審決と無効審決の2通りがあります。特許庁では特許は有効であり維持すると審決したのですが、知財高裁ではそれを取り消して特許は無効とすべきと結論付けました。
ここから専門的になりますが、伊藤園の特許はいわゆるパラメータ発明に対するもので、発明の内容は、糖度が9.4~10.0、糖酸比が19.0~30.0、グルタミン酸及びアスパラギン酸の含有量の合計が0.36~0.42重量%であることと特徴とするトマト含有飲料として規定されていました。すなわち、発明を構成するパラメータが糖度、糖酸比、グルタミン酸及びアスパラギン酸の含有量の3種類であり、それぞれの数値に特定されることで発明が規定されていることになります。
ここで問題となったのは、これらのパラメータと発明の効果の関係性について、出願時の明細書の記載でサポートされているか否かという点でした。特許として成立するための要件の1つに、サポート要件というものがあり、それは、特許を受けるために請求項に記載された発明が、その詳細な説明の記載によって当業者(同業者)が発明の課題を解決できる認識できる範囲内に入っている場合に成立する要件です。
今回の伊藤園の特許では、発明のパラメータの範囲とそれによって得られる効果の関係に
対する技術的な意味が、当業者が理解できる程度に記載されていないため、特許に対する維持審決は無効ということになりました。
特許出願の際に、発明を数値限定して捉えることがあり、その際にはその限定された数値範囲で顕著な効果があるか否かという点のみに注目が集まっていたように感じられましたが、それでは不足で、限定されるパラメータ(変数)が発明を構成していることについての技術的意義やその限定された数値範囲とそれによって発揮される効果の関係についての技術的意義を明確化しなければ、有効な特許として成立しないということが厳しく示された判決ということが言えます。
(注)出典:KSP-POSマーケットトレンドレポートVol.93