消費税増税が迫ってきました。そろそろ消費税ポイント還元のためにQRコード決済用のアプリをダウンロードしようかなぁと考えている方も多いと思います。
 この「QRコード」ですが、株式会社デンソー(現在は開発部門が分離独立して株式会社デンソーウェーブ)が1994年に開発して特許(第2938338号)も取得した発明であり、また、登録商標(第4075066号)でもあります。このQRコードが優れている点は、それまでのバーコードが横一列に並ぶ1次元だったのに対し、縦横の面積にコードを配する2次元としてより多くの情報を含めるようにしたことと、「切り出しシンボル」と呼ばれるマークをコードの中に含めたことでした。
 「切り出しシンボル」とは、QRコードの右上、左上と左下の3ヶ所にあるちょっと大きな枠付きの四角形のことで、この3つの四角形があることでリーダーがQRコードの向きも含めて高速に読取りできるようになりました。QRコードのQRとはQuick Response(高速応答)の略字だったんですね。

 ところで、知的財産権で保護されているQRコードがどうしてこんなに普及したんでしょう?
 それは、規格化されたQRコードに対しては特許権の権利行使はしないと開発当初から明言していたからでした。本来なら使用に際してライセンスを行ってロイヤルティを徴収するはずですが、広く一般の人に使ってもらうということを優先して、無償でQRコードを提供しました。
 でも、民間企業はボランティアで事業を行っているわけはありませんよね?
 それじゃあこの会社、どうやって利益を出したんでしょうか?実は、デンソーウェーブはQRコードそのものの他、コードを読み取るリーダーに対しても特許を取得していました。
 QRコードが普及すればするほどそれを読み取るリーダーが必要となり、そのリーダーを製造・販売することで大きな利益を得たんですね。なかなかしたたかですね。
 このように知的財産権をオープン(公開、無償・有償実施許諾)とクローズ(非公開、実施不許可)に仕分ける戦略をオープン・クローズ戦略と言います。すなわち、QRコードに関する特許はオープンとして自由に無償で実施してもらい、ターゲットとしているマーケットを急速に拡張させる一方、リーダーに関する特許はクローズとして自社のみが独占排他的に実施して、そのマーケットで競争優位に立ち利益を得るという戦略です。知的財産権のどの部分をオープンとしてどの部分をクローズとするかを市場浸透と利益回収という2つの観点からバランス良く仕分けすることで、低リスクで高効率なビジネスを展開することが可能です。

 これと似たビジネス戦略としてフリーミアム戦略があります。既に皆さんも経験があると思いますが、スマホのアプリで、顧客の拡大を図るために基本的な機能やサービスに対しては無料(フリー)としながら、課金(プレミアム)対象とした機能やサービスも用意することで一部の顧客から利益を得るという抱き合わせ戦略です。
 フリーミアム(Freemium)という言葉は2009年米国のクリス・アンダーソン氏による著書「フリー」の中で提唱・紹介されて有名になりましたが、フリー(Free)とプレミアム(Premium)を合体させた造語(元々はベンチャーキャピタリストであるフレッド・ウィルソン氏による造語)です。

 フリーミアム戦略も市場浸透(フリー)と利益回収(プレミアム)のバランスから成り立つ戦略ですが、オープン・クローズ戦略と決定的に違うのは、利益回収の部分に競争に対する障壁(知的財産権)がないという点です。ビジネスモデルが魅力的であればあるほど同業他社による模倣機会が増えますが、それを抑制することができません。
 もし、あなたの事業領域でフリーミアム戦略を遂行されるのであれば、知的財産権のオープン・クローズ戦略の展開もお忘れなく。

出典:維新国際特許事務所メルマガ[維新電信 Vol.102]